
健康診断や
高血圧の治療中に最低血圧が高い(90mmHg以上)と言われる場合がある。このような場合、最高血圧は降圧剤で簡単に下がるが最低血圧が中々正常まで下がらない。
最低血圧が高い場合、心筋梗塞や脳出血など心臓や血管系の病気の発生の危険因子となる。最低血圧が高い場合の治療に苦労するのは漢方でも同様である。 このような場合、通常高血圧に処方される方剤では最高血圧は下げるが、最低血圧は中々下がらない。 細い動脈の壁の筋肉の持続的な緊張(多くは精神的ストレスが原因である)が最低血圧の上昇を来すと考えられる。 この細動脈に緊張を和らげる生薬がいくつかある。一ヶ月ほど前に最高血圧が128mmHg, 最低血圧が98mmHgという高血圧の人がいた。通常の高血圧の治療に用いる方剤に細動脈の緊張を和らげる生薬を三種類加えた煎じ薬を処方した。 一週間後の血圧は125/90mmHgと低下し、2週間後には114/86mmHg, 3週間後には108/72mmHgと最低血圧も著明に低下し正常の血圧になっていた。
漢方医学では複数の内臓の病態が重なり高血圧を引き起こすと考えている。 人それぞれ高血圧の原因となる内臓病変は異なっているため、同じ高血圧でも治療に用いる生薬の組み合わせが違う。個々人の病態に合わせた処方を一定期間服用すれば高血圧は治ってしまう。 西洋医学の降圧剤とちがって、漢方治療は高血圧の原因を治すので、その後は漢方薬を飲まなくても血圧は正常になる。その意味では、高血圧は漢方治療では完治するのである。通常、降圧剤の効果の判定は比較臨床時試験で評価される。 数十人から数百人の高血圧の人を二つのグループに分けて、一方には降圧剤を、もう一方のグループには偽薬を投与して投与後の血圧の変化を比較して血圧低下効果を判定する。しかし、
高血圧に効くといわれている漢方薬ooo湯やoo散を高血圧の人に投与しても血圧は低下しない。実際に日本や米国の高血圧の専門家が比較臨床試験で漢方方剤を試験した報告では漢方薬は血圧を下げる効果はないとされている。しかし、
伝統医学では同じ高血圧の人でもその原因となっている五臓六腑の病態は一人一人異なっている。 したがって、治療する場合も一人一人で処方する生薬の組み合わせが違ってくる。一人一人の伝統医学的病態の違いを正確に診断する技術がなければ、その漢方薬の処方は効かない。しかし、正確な診断に基づいて生薬を組み合わせて、個々人に合った処方で治療すれば血圧を下げることができる。